保 育 領 域  

   体験学習を取り入れた学習材の開発     
         〜教材から学習材への見直しをはかる〜     

                  札幌市立真駒内曙中学校  教諭  黒 川 佳 子 
 






 

 

T  はじめに

 技術・家庭科の10領域の目標が「・・・能力を養う。」という言葉で終わるのに対して,保育領域では「幼児の遊び,被服や食物に関する学習を通して,その心身の発達に応じた生活について理解させ,幼児に対する関心を高める。」となっており,唯一,情意面を重視した領域である。特に,「幼児の保育」の学習に取り組むことは,自分より年の少ない幼児を理解し,思いやりや温かな心を育み,ひいては,人間の一生の中で中学生としての位置付けを考えながら,人間の成長・発達とそれにかかわる家庭や社会を認識させることである。

 指導書では「このねらいは,幼児期における適切な環境,養育の方法,両親をはじめ周りの人々や社会の在り方がどのように幼児の成長,発達に影響を及ぼすかを知ることによって自己理解につながるようにすることとしている。」と記載されている。

 昨年度,保育領域部会では,知識・理解や技能の育成をめざすだけでなく,「情意面を重視する」ことに視点をおき,学校や家庭の教育力のみではなく,多方面にわたって,幅広く考えていく方向性を提案した。

 今年度は,昨年度に引き続き,21世紀を迎えるにあたって,今の子どもたちに求められている「生きる力」について,保育領域では,どのように実践したらよいかを考え,少子化や核家族化・高齢化が進む現代において,学校だけではなく,地域の教育力とも連携をしながら子どもたちを育てていく必要性に重点を置き,以下の研究を実践していくこととした。

 

U 研究のねらい

 「生きる力」とは「自分で課題を見つけ,自ら学び自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する力」と定義づけられている。

 また,今の子どもたちは,過熱化される受験体

 

制により,塾や自宅での勉強に時間を取られ,「ゆ

とり」のない忙しい生活を送っており,マスメディアによる疑似体験や間接体験が多くなる一方で,生活体験や自然体験が著しく不足してきているのが現状である。

 そういう中での技術・家庭科での体験学習は,たいへん貴重な体験となってきている。しかし,中学校3年間での履修する領域が11領域のうち7領域と多く,各領域を十分に深めて学習していくことが困難である。

 そこで,3年間を見通したカリキュラムの重要性がでてくるが,教員配置等の諸事情を考えると難しい点が生じている。

 3年生で履修する保育領域については,家庭生活で学んだ「家族関係」や「地域社会との関わり」食物領域や被服領域での学習を土台とし,技術領域の木材加工をおもちゃ作りに生かすなど,可能な限り,既習の技術・家庭科での学習を基に,生徒の創意工夫が生かされるよう教師が支援していくこととした。

 

V 研究の内容と方法

 研究の方法の一つとして,先にも述べたように,地域の教育力との連携を視点におき,幼稚園訪問による直接体験を授業に取り入れていくことを考えた。それは,核家族化や少子化の進む現在,中学生にとって,日常生活の中で,幼い子に接する機会が非常に少なくなっているからである。そこで,「保育」学習では,幼児と触れ合う場をできるだけ多く設定して,実践的,体験的な学習になるよう工夫した。

 この方法は,以前から全国的に実践されており,その成果は,いろいろな研究報告でも紹介され,得るところは大きく,少子化が進む現代においては,貴重な体験と言える。

 ただ,中学校の近くに,幼稚園や保育園がないところもあり,実践できる場合と不可能な場合とがある。

 授業の中で取り組むことができない学校では,校外学習として,社会福祉施設等の訪問の中に,保育園や幼稚園を訪問することを学校行事の取り組みの一つとして取り入れているところもある。 真駒内曙中学校の場合は,歩いて5分ほどの所に私立の真駒内幼稚園があり,幼稚園訪問が可能となった。

 そこで,学習意欲を促す方法の一つとして実践した,3年間の取り組みについて述べることとする。

 また,感想文の書き方や,訪問の仕方についても,毎年,改善を加えていった。

 

 1.幼稚園訪問による直接体験

 (1) 平成8年度:女子のみ履修

   幼児についての事前学習なしで,各自,自  分で考えた課題をもたせ,幼稚園を訪問した

 

  a.感想文の記入項目  
1.訪問する前に考えた「課題」は解決でき
  ましたか。
2.幼稚園での観察を終えて「保育学習」で
  あなたは「幼児」について何を学ぼうと思
  いましたか。
3.幼稚園を訪問しての感想を述べてくださ
  い。
 

(2) 平成9年度:(前・後期)男女共学

   事前に幼児について,からだの発達と運動  機能の発達を学習し,遊びの様子ビデオも視  聴した後に,幼稚園を訪問した。

 

  b.感想文の記入項目  
1.あなたは幼児と,どのようなことをして
 遊びましたか。
2.訪問する前に考えた「課題」のうち解決
 できたのは何ですか。
3.真駒内幼稚園を訪問しての感想や幼児に
 ついてわかったことを書いてください。
 

 (3)平成10年度:(隔週)男女共学

  事前に幼児について,からだの発達と運動機 能の発達について学習し,「簡単なおもちゃ」 を作成させてから訪問した。

 

 

  c.感想文の記入項目  
1.自分の幼児期と比較して,どのような遊
 びをしていましたか。
2.幼稚園児と遊んで,気がついたことをす
 べて書いてください。
3.訪問しての感想を書いてください。
 

 もう一つの研究として,今年度,研究部より提案された「学習材」について検討し,過去の教材の中から「絵本」を取り上げてみることにした。 保育領域での「絵本」の取り扱いについては,「幼児が喜ぶおもちゃ作り」の製作作品として,今までは取り上げられてきていたが,指導目標としては,幼児の能力の発達を促すおもちゃとしての要素が大きかった。

 また,市販の「絵本」は,「おもちゃ」づくりの参考として利用したり,幼児の生活習慣を促すものとして扱われることが多く,「教材」として提示されてきた。

 そこで,副題で示したように「学習材」として扱うことが可能かどうかという点で,授業の中での「絵本」利用の仕方を考えた。

 2.絵本による取り組み

   (TT形式を取り入れた)

  開放図書館に司書の方による絵本の指導を通 して

 (1)平成9年度:(前・後期)

   「Book talk:テーマ性をもって  本の紹介を行う」と絵本作り

  (保育実習作品:いろいろな絵本)

 (2)平成10年度:(隔週)

   「絵本と幼児」をテーマに,今まで数多く  実践されてきた幼児の能力を発達させる絵本  (布製)の製作から,幼児の心を育てる絵本  の製作に取り組ませたい。

W  実践

 1.真駒内幼稚園訪問による幼児との

       触れ合いを取り入れた実践 

        〜直接体験を生かして〜

 平成10年度の真駒内幼稚園は年少学級1,年中学級が3,年長学級が2の計6学級から構成されている。朝はバス通園の園児が来るのを待っている間,外遊びを行っているので,その時間を利用して,園児と遊んでいる。

 昨年は,交流2年目ということで,園長先生の助言をいただき,朝の挨拶から始め,園児が遊びたい中学生のところに手を差し伸べていく形式を取った。

 更に今年は,園児へのお土産として,紙で作った簡単なおもちゃを作らせ,お別れの挨拶のときに手渡すこととした。

 おもちゃについては,教師側で3パターン用意し,学級によりパターンを決め,年齢も指定した。ただし,園児と遊ぶことを前提としたため,幼児の身体の発達と運動能力についてのみ学習させた。実際におもちゃを使って遊ぶ場面があればよかったのだが,保育領域の学習への意欲づけを目的としたため,3歳から6歳までの幼児の実態を予想しながら作成させたものと,実際との比較を今後に生かすため,以上のような方法をとった。しかし,幼稚園訪問を実践して,まだ3年目であることから,検討の余地があることは否めない。 ただ,贈る相手を想像して作成した簡単なおもちゃであるが,誰かを喜ばせるために何かを作るということは,最近の子どもたちには,なかなか経験できないため,それが家族以外で,しかも自分より年の少ない幼児であることに意義があると考える。

 ( 生徒の感想文による考察

 幼稚園訪問については,訪問後の感想文の内容についても,毎年,改善を加えている。

 

(1)平成8年度

   幼稚園訪問を保育学習の導入として取り上  げた場合

 

  a.感想文の記入項目  
1.訪問する前に考えた「課題」は解決でき
  ましたか。
2.幼稚園での観察を終えて「保育学習」で
  あなたは「幼児」について何を学ぼうと思
  いましたか。
3.幼稚園を訪問しての感想を述べてくださ
  い。
 

(生徒作文)

 

 

(2) 平成9年度

   幼稚園児と一緒に遊ぶことを目的とし,事  前学習としてからだの発達と運動機能の発達  を学習し,遊びの様子のビデオも視聴した。

   このときは,生徒が予備知識をもって,幼  児と遊ぶ場合と,知識をもっていない場合と  の違いを目的とし,幼稚園訪問が保育学習の  導入部分以外でも生かせるかどうかを判断す  ることにした。

 

  b.感想文の記入項目  
1.あなたは幼児と,どのようなことをして
  遊びましたか。
2.訪問する前に考えた「課題」のうち解決
  できたのは何ですか。
3.真駒内幼稚園を訪問しての感想や幼児に
 ついてわかったことを書いてください。
 

 

(生徒作文)

 (3)平成10年度

  2年間の生徒作文からは,関心・意欲につい て,幼児との触れ合いを保育学習の導入部で扱 った場合と,そうでない場合との相違は見受け られなった。

  また,事前に幼児について,からだの発達と 運動機能の発達について学習したほうが,訪問 したときに,幼児に対する生徒の行動に相違が 見られ,「優しい心遣い」が随所に身受けられ た。

 

  c.感想文の記入項目  
1.自分の幼児期と比較して,どのような遊
  びをしていましたか。
2.幼稚園児と遊んで,気がついたことをす
  べて書いてください。
3.訪問しての感想を書いてください。
 

 

(生徒作文)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保育学習の指導計画を立てる場合,以上の実践からは,幼児と触れ合うことを,導入として「幼児とわたし」で扱う場合と,学習途中の「幼児の生活」で取り上げた場合とでは,生徒の関心・意欲の相違は見受けられなかった。

 このことから,教師が指導計画を立てる際に,どのような目的で扱うかを事前によく検討し,いろいろな場面で活用していくことが可能であると思われる。

 特に,訪問を機会に、生徒の心に変容が見られた。学校生活においても命を大切にするという心が育ち,「心の教育」という教育的価値が大きいといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.開放図書館の司書による絵本の読み聞かせ    〜地域の教育力を生かした実践:               TT形式による〜

  以前より,いろいろな地域で,ボランティアの方による「読み聞かせ」が行われていることは知っていたが,偶然,本校に開放図書館があり,月・木の午後より,開館され,地域の子どもたちが親に連れられたり,友達などと訪れてくる姿を見かけ,クリスマス前には,読み聞かせが行われていることがわかった。

  本校生徒も利用しており,司書の方との面識 もあることから,授業をお願いした。

  昨年は絵本にもテーマ性があることから,司書の方たちの間で本の紹介を含めた「BOOK TALK」に視点をおき,「兄弟っていいな」のテーマのもと,授業を行った。

  しかし,これは読み手の訓練がかなり必要で,司書の方の中でも,なかなか実践は難しいとのことであった。また,TT形式を取るにしても,教師側もどのように関わっていけばよいかがつかみづらく,生徒への授業も一方的になりがちだった。そこで,今年度はテーマを「絵本と幼児」とし,絵本について大きく捕らえ,その後の実習でも司書の方に時折,アドバイザーとして参加していただくことにした。

  ここでは,「絵本」が,人が人として育っていくための大切な要素であること,また,言葉環境にも大きな影響を与えていくことに注目させ,絵本で培われた,探求心や好奇心が実体験で更に育てられていくことなど,幼児を対象とした「絵本づくり」ではあるが,作業等を通して,自分自身を見つめ直し,自分も育っていくことに意義を見つけだしたい。

  技術科との隔週の授業であるため,「絵本づくり」は2学期に行われるが,昨年と違い,内容やテーマ等,十分検討された作品になるよう支援していきたい。

 

X まとめと今後の課題

 1.幼稚園訪問について

  中学生が朝の自由時間に園児と遊んでいる様子を見守っていた2人の親から,担任との連絡帳に次のようなことを書いてきたと幼稚園の先生から教えていただいた。

  (母親の言葉から)










 

 今,中学生というと不安をもつが,今日,
子どもちと遊んでいる様子を見ていると,園
児のわがままなどに我慢しながら相手をして
おり,正直,安心しました。特に兄弟が少な
くなっているため,とてもよい機会だと思っ
ています。こういう取り組みが行われている
幼稚園に,わが子を入園させてよかったと思
います。
 









 

 3年目の取り組みになることから,3年生の授業では幼稚園に行くことも,生徒に定着しつつあり,楽しみにしている。また,園児の方でも中学生と遊べると言うことで,その日だけは着替えを早く済ませる子もいるとのことである。

 この実践は,中学校の授業と幼稚園の理解や協力がうまく連携した例と言える。

 今後は,遊びの時間に「絵本の読み聞かせ」を実践したいと考えており,そのために,共同で大きな絵本を作成するなど,幼児に示す作品をさらに検討したい。

 

 2.地域の教育力を生かした

          取り組みについて 

開放図書館の司書の方による「読み聞かせ」は今後も続けていきたいが,司書の方が交替したときの不安は否めない。

 ただ,ボランティアの一つとして,地方の小学校へ出かけている方たちもいることから,まだ何年間かは継続できる実践かと思われる。

 また,近くに保育科を常設している短大があるので,できれば,大学の授業の見学や図書館の利用,保育園の訪問等,地域の利点を生かした実践が必要かと考える。

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