| ||||||||||
T はじめに
中学生の生活体験の不足が言われる中,無作為抽出で札幌市内の中学3年生1,358名を対象に被服生活に関する実態調査を実施した。(別紙)調査項目は大きく分けて「被服生活」「生活体験」「被服学習の授業の進め方と学力」についてである。これらの実態の分析を通して,被服領域の中で身に付けさせたい基礎的な学力とそのための手だてを考えていきたい。
被服生活では,衣服の選択にあたっては大部分は親と共に購入しているが,自分の意思をしっかり反映させていることがわかる。しかし,商品を選ぶ視点ではデザインが優先され,試着もせずに購入する場合もある。品質・素材・縫製・着用目的など商品知識や消費者としての意識の定着が必要である。
また,製作技能については,男女差はあまり見られないが,個人差は大きい。授業で学び身に付いた技術が生活面で生かされていない実態もある。既製品が多く出回り,自分で直したり製作する機会も少なく,生活体験が乏しいことが実態である。必要な技能とは何か,得た技術を生活の中で生かしていこうとする意識をいかに育てるかが今後の課題となろう。
授業形態では,実習やコンピュータ学習を好む生徒が多く,一人一人が何らかの形で授業の主人公になることを望んでいる。しかし一方で,ビデオ学習(視聴後ビデオをもとに考えたり,レポートを書くのは嫌がるが)や教師主体の説明の多い授業など,指示に従って行っていく受動的なものを好む傾向も見られた。
これらのことから,生徒たちが自分の生活をしっかりと見つめ,考えたり工夫していくことを億劫がらない姿勢や意欲,また生活技術を科学的に見つめたり,技術の習得を楽しむことなど,生活を自律的に営んでいくことのできる「生きる力」を育成していきたいと考える。
U 研究のねらい
1.領域研究テーマ
生徒には自分の生活を見つめ,「着る」主体者として衣生活をよりよくしようとする意識を持たせたい。そのために「考えることの楽しさや,工夫した結果,快適に過ごせたときの喜び」などを味わわせたいと考える。本領域研究では,考え学ぶことが楽しくなる授業の展開を目指し下記のテーマを設定した。
自らの生活を見つめ,考える力と
学びへの心を大切にした授業の展開
2.研究仮説
生徒の実態と研究テーマにせまるために,
下記のような仮説をたてた。
「学習材」を用いて課題に取り組むこと
により学ぶ喜びを実感するならば,生活を
見つめ生かす力を培うことができる。
「学習材」を,下記の通りにおさえる。
○生徒自らが見つけたり用意する学習の素材
○教師が用意したものであっても生徒が自然に学習に取り入れたり,学ばずにはいられない気持ちにさせるもの
○自ら考え,試行錯誤し,問題解決しやすいもの
○知識や技能の習得だけではなく,学び方をも含めて学習できるもの
○学習に対する価値観や必要性(学ぶことの楽しさ)を育むもの
これらの学習材を用いて,学習課題に取り組むことにより,生徒の知的好奇心を満たすことができたり,授業が楽しい,おもしろい,生活に役に立つと感じ,学ぶ喜びを実感するであろう。また,そうすることを積み重ねていくことにより,試行錯誤しながら快適なよりよい衣生活を営むための工夫をし,考える力や学びへの心を培うことになると考える。
V 研究の内容と方法
1.実態調査と分析(別紙資料参照)
実態調査対象:札幌市内中学3年生
男女1,358名
調査内容項目:被服生活に関する生活体験
学習方法・学習内容
実態把握方法:5項目に分類を試みた
|
2.学習材の開発
適切な学習材を用いた授業を展開することにより,生徒が主体的に考え,試行錯誤して学びながら,学ぶことを楽しませる。さらに,それが快適な衣生活を営むために役に立つという実感を味わわせる。そのための支援を教師がどのように行っていかなければならないか。学習材の開発を下記のように進めてみた。
(1) 学習材模索カードづくり
生徒が「考える力」を培うにはどのように授業展開をしていくとよいのか。課題が与えられたり,課題を見つけたときに,解決に向けて取り組むことを楽しく思えたり,解決することが喜びになるような授業を展開することが考えられる。そうすることにより「学びへの心」も培われると考えた。
そのために私たちは,授業の中に「楽しく考えることができる場面」を取り入れる工夫を行った。その模索状態で考えられたのが「学習材模索カード」である。これは,指導事項,学習内容,ねらい,具体的な内容(支援の手順・思考する場面の設定)などを簡単に書き授業展開に教師が気軽に活用できるように工夫したものである。 (表1と別紙資料参照)
(2) 学習材を取り入れた指導計画
今まで用いていた,被服領域指導計画(30時間)のどこの部分に学習材を取り入れて授業を展開するとより効果的であるか。また,どの部分が学習材を取り入れやすい部分なのかを検討し,指導計画を立ててみた。
(表2と別紙資料参照)
表1
表2
3.「被服・家庭生活」領域関連指導構造図
W 実践
1.題材名 「快適な衣生活」 〜既製服の選び方と
これからの衣生活について考えよう〜
2.生徒の実態
「被服領域」の学習に関しては,実習は好むが,その手順を考えながら自分で進めることは苦手である。男子は特に受動的な傾向があるが,手順を確認しながら進めていけば完成まで頑張ることができる生徒である。
衣服の購入に関しては,男女とも6〜7割の生徒が楽しみにしている。購入場所も近くの大型ス−パ−よりも専門店が多く,その傾向は男子に強い。このことから,衣服に関する興味はあることがわかる。このような関心の高さを生かし,さらに自分の衣生活に目を向けさせながら,問題点に気づかせ,よりよい衣生活のあり方を考えられる生徒に育てたい。
3.題材設定の理由
本校3年生の衣生活に関する学習は,1年生の「家庭生活領域」と3年生の「被服領域」で行なわれる。
生徒の日常に衣生活は,既製服の購入を中心に行なわれている。衣服の流行に関する情報があふれる中で商品を見つめる姿勢のみならず,自分の衣生活や家庭生活を考えた上で,生活をよりよいものにしていこうとする意欲が育ってほしいと考え,この題材を設定した。
題材設定にあたっては,特に次の4つの視点に留意した。
@自分の既製服の選び方をはじめ衣生活の問題点に気づき,改善点を考えることができるもの
A他の生徒の考えを知り,自分の視野を広げることができるもの
Bお互いの作品を認めあうことができる場の設定ができるもの
C自分で考えたという達成感を味わわせることができるもの
4.研究とのかかわり
研究主題に迫るために,課題解決に向けて一人一人がいろいろ考えられるような場や試行錯誤できる場面を多く取り入れようと考えた。そして,より効果的にするために,教師が説明をあまり多くせず,常に一人一人の生徒の状況を把握しながら支援するよう心がけた。また,場をつくることで,より適切な表現ができるような工夫をした。さらに,学習材を工夫することで,日常の体験と学習の関連性に気づき,自分の生活に生かせる力をつけられるようにと考え,実践をしてみた。
5.本時の展開
(1)目 標
@実習作品の中から自分で衣服を選択することを通して,既製服の適切な選び方を考えることができる。
A自分の衣生活を振り返り,改善点を考えようとする。
(2)展 開
| ||||||||||||||||||||||||||||||||
(3)評 価
@実習作品の中から自分で衣服を選ぶことを通して既製服の適切な選び方を考えることができたかどうか,
授業での反応やプリントから評価する。
A自分の衣生活を振り返り,改善点を考えようとしたかは,プリントで評価する。
B
A
C
6.実践のまとめ
(1) 同じ授業展開であっても学習材の扱い方(教師の支援の仕方)を変える事によって,生徒の考える視点がより絞られ,課題解決に向けて意欲的に取り組めるようになった。また,他人の意見や考えを聞く場面をつくることで,自分の考え(視野)を広げるきっかけとなった。
例えば,ワ−クシ−トAでは,教師のはたらきかけを極力少なくすることで,幅広い意見が出されたが,この場合,教師の押さえをしっかりしておかなければとらえ方が漠然としたものになりがちであった。
ワ−クシ−トBでは,選ぶ段階で値段はすべて同じにし,まとめの段階で着用目的を意識したはたらきかけをすることで,選ぶポイントがしぼられ,まとめの段階での生徒の意識もより実生活を意識したものになった。
ワ−クシ−トCでは,選ぶ段階やまとめの場面での適切な支援をすることで,より効果的に,生徒の幅広い考え方を引き出せるようになった。
(2) 領域の導入段階で,試行錯誤の場面を意識して授業に取り入れることにより,興味・関心が高まり,その後の学習活動にも意欲的に取り組ませることができた。
例えば,「被服の材料」のところで,様々な布地を予備知識を与えず,自由に手に取り,観察することで,違いや特徴などの発見があり,同時に疑問がわいてくる。それを,発表したり,聞いたりする中で,整理されまとめられていく。教師は,その時点で生徒の発表を用いてポイントを確認していき,さらに,発展として,日常の生活(日常の衣服)に目を向けさせるような,なげがけをする。このような授業展開を行なった後の生徒の様子を見ると,わかったという満足感や楽しかったという感想を持ったようである。
こうした授業を積み重ねることによって,今までの自分の生活を振り返ることができ,これからの生活に生かしていこうという意識が芽生え,幅広い視点で物事を見つめることができるようになった。
X まとめと今後の課題
本研究は授業を学習者である生徒の立場に立って改めて見つめ直し,「学習材」を用いた授業実践を試みたものである。その結果,生徒自らが生き生きと主体的に活動する姿を授業で見ることができた。限られた時間の中で,学習材を使った生徒の学びを大切にした授業を展開し,積み重ねることによって,「学びへの心」が育ち,学習内容が理解され,定着度も高いようである。また,教師が「指導する」のではなく,生徒の学びを「支援する」ことにより,自ら考え,判断し,問題を解決しようとする力がついてきたのではないかと考えられる。
今まで見過ごしてきた日々の生活の中の疑問や問題点に気づき,自らの生活をより良いものにしていこうとする生徒の姿勢も見ることができた。
今後の課題として次のことが考えられる。
(1) 考えさせたり,試行錯誤をさせる場面などを設定する「学習材」を用いる授業では,生徒がじっくり取り組めるための時間を確保しなければならない。単に被服領域だけではなく生徒の3年間を見通し,基礎・基本をおさえた指導計画の厳選に今後も取り組まなければならない。
(2) 前述の実態調査からも明らかになったように,生徒の「着たくないもの,使わないものは作りたくはない。」という思いを考えてみる必要がある。製作実習の題材を決定するための観点はいくつかあるが,生徒の製作意欲への強い影響を考えるならば,製作学習のねらいや意義づけを含めて実習題材を検討しなければならない。
(3) 本研究では深くふれることはできなかったが,近年では「使い捨て」のみならず「使わず捨て」まで一般化しつつある。自分だけに都合の良い選択ではなく,資源や環境について地球規模で考えていける能力もつけさせるような授業の展開も必要である。
最後に,本領域を担当する教師は各校ほぼ1名の配置であり,日頃は交流する機会が非常に少ない。しかし,この研究を通して,実習題材の選定や授業観,実習室の管理等を幅広く交流しあい,私達自身も楽しみながら学ぶことができた。